■某国製鶏焼き機を分解してみた。(2011/12/09)

 某国では、古くからの料理で鶏を丸ごと一羽お腹の中に朝鮮人参/香草などを詰めて丸焼きする料理があるのですが、直火で焼くのではなく本来はコンクリートなどの壁面を焼いてその輻射熱で加熱します。

 某国へ行けば、実際に薪で壁面を焼いてその壁の前に串刺しにされた丸鶏がこんがり焼けているのを見ることができますが、一般的な商店ではなかなかそのような焼き方は出来ず、電気ヒータが熱源になった大型オーブンのようなものの中で金属製の籠に入れられたり、3~5羽の丸鶏が刺された複数の串が観覧車のように回転する機構でムラなく焼けるようにした「鶏焼き機」なるものが店頭で見かけることが出来ます。

 過日、知人から「鶏焼き機が廻らなくなったので見て貰いたい」との依頼で、初めてその内部に触れることが出来ました。
見かけは幅1m、天地1.5mくらいの大型オーブンといった形で、その天井部分に4KWのヒータが取り付けられています。
照明は、普通の直管型の蛍光灯でこれも内部に取り付けられています。 蛍光灯は耐熱製品でもなく、遮熱機構もありませんが・・・。

 回転機構は、大雑把に言えばかご形モータの籠の部分に観覧車のように籠がぶら下がっており、その軸部分をモータで回しているといった感じです。

 軸部分は左右の壁に貫通しており約16Φの鉄棒です、既に焼けて表面は茶色く錆が出ています。
右の壁部分は、約20cm程度の厚みがあり、表面にはなにやらスイッチや調整つまみ等がありますが、何せ某国の母国語で書かれているので全く意味がわかりません。
 取り敢えず、店主にその内容を説明して貰うと、元電源のON/OFF、ヒータのON/OFF、回転のON/OFF、照明のON/OFF、加熱時間の調整(タイマ)などでした、火力の調整は?と言うとそれは回転速度で調整するようです。
まぁ、4KWのヒータの電流調整となると、それなりにコントローラのコストが掛かる訳で、長年培ったノウハウでちょうど良い火力になるように始めから機構的に設計が出来ているのだと言うことでしょう。

 以前、オランダ製のクッキー焼き機を触ったことがありますが、やはり火力調整はなく、コンベアの速度調整があるのみでしたので、大電流の制御はコスト上パスするのが常套手段のようです。

 それでは、右の壁の横のパネルを外してみましょう。 そこには、きっとモータや減速機が組み込まれていると思われます。

 パネルを外して真っ先に目に入ったのが2KG程度のトランスです。どうも200VACを12VACに落としているようです、そのあとには整流用ダイオードが1コとコンデンサ1コ、そのままモータに直結されているので、このモータは半波整流され少しコンデンサでナマされた激しく電圧の揺れるDCで駆動されている模様。
こんなんではモータ本来の能力の半分も出せていないのではないかと思われます。
更に、モータはナント車のワイパーモータです。 壁から突き出た16Φの軸に150mm位のギアが付けられており、ウォームギアでこれを駆動しています。

 診断は、経年劣化+熱による劣化でモータのトルクが落ちていると思われ、モータ交換が妥当ですが、某国製の同型ワイパーモータが簡単に入手できる訳もなく、コストもそれなりに考えないといけないので、少し躊躇します。

 そこで、少し動作させて様子を見ることにします。

 冷間はそれなりに籠が廻るのですが、ヒータを入れて少し経つと廻らなくなってきます、モータ自体の発熱もかなりなもので、素手で触ることは出来ません。 やはり、いい加減な整流をした電源のおかげで、モータコイル自体が発熱していると思わざるを得ません。

 取り敢えず、現状のモータトルクをパワーアップする=実は本来のモータの能力をちゃんと引き出せるようにするだけですが、整流用ダイオードをブリッジに変更してやることに。
これだけでも、かなりのトルクアップが見込め、モータ自体の発熱もかなり抑制できるのではないかと思われます。 ブリッジなら500円とかのコストで済みますし。

 これで暫く様子を見ることになりましたが、2週間程度でまた廻らなくなったと言う連絡を受けました。

 ブリッジ整流にして様子見と同時に、某国製造メーカに機械図面・電気図面の提出を求めていましたが、返答は「図面は存在しない」と言うことです。
ワイパーモータの時点で結構怪しいとは思っていましたが、図面が存在しないというのは想定外でした。
これでは、代替モータを選択しようにも設計上の必要トルクや目標回転数など何も解らないと言うことです。

 後日現地を訪れる機会がありましたので、製造メーカにも寄ってみましたが、工場(こうじょう)でもなく、工場(こうば)でもなく、オフィスでもなくただ単に3坪ほどの店舗のような構造の建屋に限りなく鉄クズに近い資材が置いてあり、作業はほぼ路上というこれまた想定外の状況でした。
そこには、職人の技もなければノウハウのかけらも見当たりません。 図面などというものとは生涯縁のない所です、逆に図面などと言うのはナンセンスに思える程。

 閑話休題。

 再度廻らなくなった理由は明白でした。
全体にストレスが大きくなっていた機構部分を、モータ電源の回路を正常化した事によるトルクアップで無理矢理回していたことにより、ワイパーモータの軸受け部分(テフロンに似た樹脂製、ただのナイロンかも知れない)が摩耗してモータ軸の芯がズレてしまった事に拠るものでした。

 流石に、このモータは限界が来ていると思いましたので、モータ交換をユーザに提言します。 そして、図面などの資料がないので現状のモータのトルクなどが解らないことなどから独自に機構を再設計する必要があること、左側の壁に埋め込まれている軸受け部分のベアリングは、少なくとも2コ以上のボールが砕けているようだが壁を壊さない限り交換はムリなこと、などを了承して頂いた上で設計製作に取りかかることに。

 取り敢えず、機構部分が全て1mm厚もないステン板の上で組まれていることが許せません。 ここは、アルミ製10mm程度のベースを貼ることにします。 この上に速度コントローラ付きの減速機付きインダクションモータ、16Φの回転軸に付いているギアと、ウォームギアは新規に作り直し、1rpm~10rpm程度に速度可変出来るようにします。

 ギアは既製品ですが、どの程度のトルクが架かるのか見当も付きませんのでかなりオーバスペックなギアを選定しています。 計算では40WのACモータですが超低回転(減速比1/360)なので軸トルクは100Nmくらいあります、少々の抵抗でも軸ごとネジ切る勢いで廻ることでしょう。

 コントローラは表面パネル下部にスペースがありますので、55×81mm位の角穴を開けて取付です。

 材料費+若干の工賃を頂いても5万円程度で出来ました、某国製造メーカは本国に送り返せば無償で直すと言っていたそうですが、航空運賃だけでも5万円では片道にも覚束ないと言うことだったので、ユーザにとっても充分にコストメリットはあったと言うことです。

 しかも、今度のモータはワイパーモータではなくちゃんとした工業用のものですから、耐久性でも問題ありませんし、万一故障しても国内で手配が出来ます。

 稼働当初は、左壁内部にあるベアリングの割れたボールが引っかかって、時々ドカン!と凄い音がしたそうですが、恐らくベアリングのボールが更に細かく砕けたのでしょう、現在では順調に廻っているようです。