映画評 私は貝になりたい 2008年に中居正広・仲間由紀恵で制作されたのを機会に、昔フランキー堺・新珠三千代で制作されたものがあった事を思いだし、トリガになった中居正広・仲間由紀恵版は観ていませんでしたが、1959年制作の劇場版をレンタルして観てみる事にしました。 【1959年劇場版】 連合軍と日本軍の軍律の違いや、文化の違い、法廷現場の通訳の不味さなども描いてはいるのですが、ちょっと頭の足りない(前途の意味で)豊松にとってはそれらを理解した上で法廷を乗り切る事はできなかったと言う事に帰結すると思われます。 結審後の展開は、執行中止へ希望をさんざん抱かせておいて追い落とすという展開ですが、流石にモノクロ時代の映画だけあって、現代的には稚拙な演出と説明不足な展開で、「子供の頃に確かに観たな」みたいな感想でした。 【1958年TV版】 知ってしまった以上は観てみなくてはと思い、こちらも観てみました。 内容は劇場版と同じで、ってこちらがオリジナルなんでこの表現はおかしいんですが。 VTRなら一発撮りはおかしいだろうとお思いでしょうが、当時の2インチテープや録画機材はあり得ないくらい高価で、切り貼りのテープ編集なんて全く眼中にない時代でしたので、VTR素材でも撮るだけ、再生するだけのものとして使っていたのです。 そのことを証明するかのごとく、このテープはTBS(当時はラジオ東京)最古の番組映像資料として同局のアーカイブに丁重に保存されているのです。 まぁ、50年も前の磁気テープですから、実際にそのまま再生などすれば磁性体がボロボロ剥がれ落ちて画像は跡形も無くなってしまうのでしょうが。 【1994年TV版】 【2008年劇場版】 しかしながら、このコラムを書くに当たっては観ておかないといけないと思い結構冷めた目で観ていたのですが、召集令状=赤紙を貰った時点で既に私の目には熱いものが・・・。 主人公の豊松は、足が不自由な設定になっていて、ちゃんと殺せなかった理由付けにしていますし、上官から目をつけられるノロマな設定にも説得力を持たせています。 また、嘆願書の署名集めに重きを置いて苦労して署名集めをする妻=房江の苦労を描いているのも新しいアプローチです。 署名集めで雪の中を子供(二人目の子供も新しい設定ですが)を背負って、歩く姿は泉ピン子がその場面に出演している事もあり「おしん」を思い浮かばせるところは、演出のちょっとした遊びなのかと思わせる部分ですが、そんなことを考えて観てはいけませんね。 どだい50年もの時を隔てた映画を比較するのは、それ自体が間違った行為だと思いますが、昔のものは撮ったその時代を思い出させてくれるモニュメントとして存在し、現代版のものは新たな感動を沸き立たせてくれる作品として、何れも価値あるものでした。 特に今回期待していなかった中居正広の演技は、嫌みがなく役に没頭していて好感が持て、感動もさせてくれました。 1958年(昭和33年) TV版 フランキー堺・桜むつ子 |